いま音楽を「聴く」理由はない?:新しい音楽の学校 受講生が感じる「業界の課題」
音楽業界に留まらず、弁護士、ITから都市開発まで、多様なフィールドで活躍する受講生約50人を迎え、2019年7月3日に開校した「新しい音楽の学校」。岡田一男(エンタメブートキャンプ)、ジェイ・コウガミ(All Digital Music)、柳樂光隆(Jazz The New Chapter)、若林恵(黒鳥社)らがボードメンバーとして講師を務め、受講生とともに音楽の未来を考える半年間の長期プログラムだ。
初回の入学式では、アイスブレイクもかねた受講生同士のディスカッションが行われ、各人が考える音楽に関する「課題」が開陳された。次回から本格的なレクチャーが始まる前に、業界の内外から投げ掛けられる問いを講師陣とともに洗い出し、共有する回となった。
(会場のスクリーンには、参加者のもつ課題が随時追加されていった)
若林は受講者の言葉に応えるなかで、「音楽には価値がある」という前提がすでに壊れていることを指摘する。かつて音楽産業が大きくなっていたとき、楽曲は会話のタネとなり「社会の潤滑油」としての役割を果たしていた。その役割をもはや音楽が果たせなくなったいま、「なぜ音楽が人間にとって重要か?」という問いから考え直す必要があるという。
そんな音楽業界が抱える課題はもちろん、変わりゆく世界のなかで日本が直面する状況をも捉えた「新しい音楽の学校」第一期生の問いをご紹介する。
(ジャズ評論家の柳樂光隆は、受講生の議論に飛び入り。耳を傾けていた)
変容する「アーティスト」の在り方
・いまアーティストにとって、レーベルはどんな意味があるのか?
・これからのアーティストは、いかに稼げばいいのか?
・売上のために、アーティストがやりたくない握手会をやるのは是か?
・二次創作を、規制すべきか黙認すべきか?
・「アルバム」という形式を越えて、「作品」をどう拡張するべきか?
・楽曲の「断片」をつくることだけが、アーティストの仕事なのか?
・独立系のアーティストは、「裏方」の仕事に忙殺されている?
・アーティストだけだと、Spotifyのデータを分析をしている時間がない?
・ファンをサポーターに育てる場所が必要?
・アーティストは、他の業種とどうコラボレーションすべきか?
(各ボードメンバーも、テーブルを周り受講生の言葉に耳を傾けた)
「聴く」だけではない音楽
・なぜ音楽に、価値があるのか?
・いま、一般社会は音楽をどう捉えているのか?
・そもそもいま、音楽は文化として成立しているのか?
・音楽が聴かれている時間そのものが少なくなっている?
・音楽がそれほど好きでない人が、音楽を聴く理由はあるのか?
・音楽は「聴く」ものから「遊ぶ」ものに変わりつつある?
・音楽はコミュニケーションのツールになっていく?(ex. Tiktok)
・日本は、音楽で遊んできたひとが潜在的に多い?
・Jリーグは、昔サッカーで遊んでいた人をサポーターにした?
・「遊んでもらう」から「お客さんになってもらう」は、どう繋がる?
・どう遊んでもらえれば、アーティストに価値が還元されるのか?
(フィンガーフードをつまみながら、和やかな雰囲気で入学式は進んだ)
世界と日本と音楽
・東京をもう一度、音楽都市にするにはどうしたらいいのか?
・昔、世界のミュージシャンが渋谷でレコードと機材を買っていた
・エフェクターはいま中国製が流行っている!?
・深圳には、スマホだけでなく、変な楽器をつくってるやつもいる!?
・楽器のイノベーションが、新しい音楽をつくる?
・なんで日本では、レーベルと楽器メーカーの距離が遠いのか?
・音楽の価値に関して、説明責任を果たせる人間がいない?
・アラブ圏だとサンプラーにはモスク的なリバーブ機能がないと売れない?
・日本の音楽は、アジアなどの海外のマーケットにどう向き合うべきか?
(入学式にはキリンビールから「一番搾り」が提供された)
拡張される音楽の「仕事」
・音楽は人の行動を変えることができる?
・音楽が、地域の歴史を知るきっかけになる?
・音楽が好きな人は、音楽以外の仕事にその愛をどう生かせるか?
・音楽業界を目指し就活したが、業界に入れなかった人は何してるのか?
・音楽業界の経営/財務/法務は、誰がやるべきなのか?
・音楽をめぐる状況の変化に、「裏方」はどう立ち向かうべきか?
・アイデアを出す法務が、音楽業界を変える?
・新しいマーケットをつくるには、法務やビジネスの見解が必要になる?
(参加者のテーブルを回り、議論に参加する若林恵)
入学式が終わったあとも、受講生たちは閉場のギリギリまで会場に残り、議論を重ねていた。それぞれの参加者は、自身のもつ問いと業界全体の問いを照らし合わせながら、次回以降のレクチャーに耳を傾けることとなる。初回講義のテーマは「音楽シーンを拡張させる未来の仕事:その背景と構造」。講師は音楽メディア「All Digital Music」を運営するジャーナリストのジェイ・コウガミが務める。
写真:間部百合
文章:矢代真也(飛ぶ教室)