エンタメではない音楽の価値を実装せよ:「新しい音楽の学校」説明会ハイライト
岡田一男(エンタメブートキャンプ)、ジェイ・コウガミ(All Digital Music)、柳樂光隆(Jazz The New Chapter)、若林恵(黒鳥社)らボードメンバーが率いる「新しい音楽の学校」。7月3日の開校に先駆けて、プログラム説明会が6月21日の夜に開催された。音楽業界の未来を憂う50名以上の参加者があつまるなか、プログラムの内容とその意義について、4人それぞれが熱弁をふるった。発言のなかから、ハイライトとなる言葉をまとめる。
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〈1〉「エンタメ」の外へ出よ
若林恵(担当講座:インフラとしての音楽 社会のエコシステムと血液としての音楽)
「エンタメはある種の機能を指している言葉で、日中働いた労働者が週末や夜に気晴らしするためのコンテンツのこと。近代的な産業構造のなかで、労働者がリフレッシュして仕事に戻っていく生活が前提となっている。働き方改革が叫ばれ仕事の在りようが変わるいま、エンタメも変わる必要がある。音楽は気晴らしのために聞かれるだけではない。たとえばライブは、そこで人と出会ったりすることもある。それはエンタメを越えた社交空間としての機能をもつ。音楽産業はエンタメという構造のなかで発展してきたが、音楽のもつ価値はエンタメだけに限られるものではなく、複雑に入り乱れている。新しくやってくる社会のなかに、その価値をどう埋め込むかを考える必要がある」
〈2〉グローバル化の先の流れへ
ジェイ・コウガミ(担当講座:『新しい裏方』の仕事 再定義される音楽ビジネスのプロフェッショナル)
「今年、フランスで開かれていた国際音楽産業見本市・MIDEMに行って一番驚いたのは、各国の音楽業界に携わる人たちの共通の問題意識が統一されていること。ヨーロッパ、アフリカ、アジア、アメリカの人たちの間で、『この領域はこうしていこう』という意識が共有されている。そこには、各々の国の業界構造は全く関係ない。そんななか日本でレコード会社やマネージメントや業界団体の足並みが揃っていないのは、危うい未来に繋がりかねない。もちろん、世界の人たちも音楽業界の未来がどうなるかはわかっていない。ただ、グローバル社会といわれるいまのもっと先には、『自分たちはどうしたらいいか』という意識を統一しようという流れがある。『日本はストリーミングだと回らないよね』というネガティブな話しをしている場合ではないのかもしれない。同じ問題をもっている人たちを繋げることがビジネスを越えて大切になってきている」
〈3〉教育はコミュニティーに還元される
柳樂光隆(担当講座:音楽が生まれる場所 音楽教育の最前線)
「とくにアメリカでは音楽シーンのコミュニティーは、ミュージシャンやレコード会社の人やライブに関わる人や、スタジオエンジニアだけによって形成されているわけではない。地域のコミュニティーや音大で教育に携わる教師や、ジャーナリストといった批評側も内包されている。そこでのコミュニケーションが教育に還元されていくことで、音楽シーン全体が発展していく流れがある。その上で、アメリカでは教育自体がビジネスとして成立している。単純に優秀なミュージシャンを輩出すればいいという話しではない。さらにアメリカは、そんなの教育のモデルを中国などに輸出している。教育がいわゆる『勉強』という枠に押し込めることなく、ビジネスへと繋げ業界の発展を支えている」
〈4〉決断するアーティストの力になれ
岡田一男(担当講座:アーティスト・ファーストへ 〜表現の現在とつくり手を育てる産業構造)
「アーティスト側の責任が、徐々に重くなっていると感じている。創作の在り方が多様化するなかで、とくにインディペンデントに活動するアーティストは本人が決めないといけないことが増えてきている。たとえば、YouTube、SoundCloudのようなサービスを活用していると、楽曲の人気は再生回数などから可視化される。ただ、売れそうな曲だけ発表するのが正しいのか? レコード会社の力が強かった時代は、担当者が音楽性の決定権をある程度もっていたが、いまの時代は本人が自ら決断しなければならない場面が多い。このようなアーティストが自ら責任を引き受ける状況は、確実に増えていっている。音楽業界としては、そんな環境にいるアーティストにどう力になっていくかが重要になってくる」
全16回の皮切りとなる初回の授業(入学式)は、7月3日(水)に説明会と同じく、株式会社ピースオブケイク イベントスペースで開催される。プログラムへの申し込み締切は7月3日(水)までとなっている。