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「カルチャーファースト」のネットワーク: 新しい音楽の学校 HR Summit 2019 開催に寄せて(若林恵)

供給サイドの都合で一方的に「配給」される、そういうビジネスはいよいよ終わりを告げつつある。サプライサイドの主権は、とうにデマンドサイドに奪われている。「〇〇ファースト」の物言いはすっかり一般化したが、ここでの「〇〇」は、例えば音楽ビジネスであれば、「アーティスト」か「リスナー」が入るべきものだ。ところが相変わらず、その「〇〇」のところに、「自社」を入れて平然としている人たちはあとを絶たない。

提供者主権からユーザー主権へ、なんて話は、かれこれ10年以上も、もうそんなことは言われていたんでなかったか? とりわけコンテンツビジネスにおいてその転換は劇的なものだった。にも関わらずビジネスサイドの思考転換の遅さはユーザーの想像をはるかに超えて、いまだに昭和のモデルにしがみついている。

話は簡単だ。中央集権的に編成され、中央から外へと一方的に商品やサービスが配給される大量生産+大量消費に最適化された、近代産業社会のディストリビューション機構は、分散的に点在するプレイヤーたちをネットワークとして束ねていくネットワーク/プラットフォーム型に取って変わられる。

それだけのことだ。ポイントが「ネットワーク」にあるのであれば、あらゆるビジネスは、その基盤となるネットワークの構築を急がなくてはならない。ただし、ここで日本のビジネスは大きな困難に直面する。というのも、垂直統合モデルのなかでビジネスを組み上げるやり方しか、概ね日本のビジネスは知らないからだ。垂直統合モデルのなかで「上」を向いて歩くことしか知らない働き手たち。人呼んで「サラリーマン」。官僚化し、サラリーマン化したビジネス機構が、時代の変化に対応できないのは無理もない。

そもそもカルチャービジネスは、そのネイチャーにおいて、分散的で水平的なものだったのではないか。文化はネットワークとして、世の中に姿を表す(わかりやすい言葉で言うなら「コミュニティ」と言ってもいい)。であればこそ、カルチャービジネスはいま一度そのネットワーク編成力を取り戻せばいいだけのこととなる。と、言うのは簡単だ。縦から横へ。直線から円へ。長年染み付いた思考形式を変換するのは容易ではない。

マルチプラットフォームが環境となったいま、こうした思考形式をいかに柔軟に使いこなすかは死活問題になる。それは当然、組織構造の変革から、人事(HR)の考え方そのものにもアップデートを促す。もとより、そうした新しい環境のなかでは、「仕事ができる」の定義はおよそ様変わりしてしまう。未来のカルチャーの担い手は、どんどんネットワークを拡張し、そこに網の目のようなエコシステムを編み出していくような人、場所、組織となっていくだろう。今回のカンファレンスで招聘した、ニューヨークとロンドンからのスペシャルゲストは、これからのカルチャービジネスの担い手の格好のモデルとなるはずだ。

「新しい音楽の学校」の第2回目となるカンファレンスは、まさにそうした新しい担い手をネットワークするような場所となることを願って企画してみた。業界のなかでいくら自分たちの「未来」を考えていても、それはずっと相変わらずの「自分ファースト」にしかならない。あらゆる業界の人たちが「カルチャーファースト」を旨に取り組むことなくしては、健全なカルチャービジネスも育たない。前向きで、希望を感じられるような対話が、ダイバーシティに富んだオーディエンスのネットワークのなかを流れていくことを願っている。

若林恵|NSOMボードメンバー代表/黒鳥社

きたる11月30日にShibuya QWSで開催となる新しい音楽の学校 HR Summit 2019。その詳細およびお申し込みは下記から。

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